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「杉の花粉」の独断と偏見に満ちた愛読書紹介コーナー

「杉の花粉」の独断と偏見に満ちた愛読書紹介コーナー

1何もすることがなく退屈な時に

1 何もすることがなく退屈な時にお勧めの本
【1】「薬師寺涼子の怪奇事件簿シリーズ」田中芳樹著
 キャリア警察官「薬師寺涼子」を主人公とした痛快アクション伝奇小説。 田中芳樹が「銀河英雄伝説」シリーズ(読んでませんが)に飽き飽き して、好き放題に書きなぐった小説が思わずベストセラーになってしまったと「杉のかふん」は思ってます。
 「あたしは、無欲な人間だからね。欲ばりどもみたいに世界を平和に、とか、全人類を幸福に、なんてだいそれたことは願わないの。あたしひとりが幸福なら、それ以上のことは要求しないわ。謙虚でしょ?」
 「アドルフ・ヒットラーの売り文句は、『世界に恒久的な平和と秩序を』だったのよ。何千年もみんなで努力して実現すべきものを自分一代でやってやろうなんて強欲もいいところよ。」(「魔天楼」より引用)
 『あたしひとりが幸福なら、それ以上のことは要求しないわ。謙虚でしょ。』は我が家の家訓となりました。
 現在も続いているシリーズですので、早く読みたい方は、新書版「祥伝社(NON NOBEL)」800円位、多分1年もすれば文庫版「講談社文庫」が500円位で出ます。
 シリーズ作品:「魔天楼」「東京ナイトメア」「黒蜘蛛島(ブラックスパイダー・アイランド)」「クレオパトラの葬送」「夜光虫」
「魔天楼~薬師寺涼子の怪奇事件簿」

【2】「かたゆでマックシリーズ」藤原征矢著「ソノラマ文庫」
 〈ファイアイーグル〉マックこと「マキシン・グレンディー」、女子高生無免許ナビゲーター「カイリ・キノウチ」、女戦士「キム・ライカ」が中国系の賭屋の胴元リュー・バンブー率いる「スターシップ・エージェンシー」の依頼(策謀?)に嵌り、巨大資本グループ「ファイブ・スターズ」と格闘を繰り広げる。
 と書くと真面目なSFの様で、一応ハード・ボイルドを標榜しているようですが、SFだかコミックだか恋愛込みのラブストーリーだか、ハッキリ言って良く判りません。
 とにかくB級のエンターテーメントとして、やたらに面白いシリーズです。
 第1作目「【古本】グラルナイト戦争/藤原征矢」「【古本】龍の後継者 かたゆでマック2/藤原征矢【古本】ブルー・ムーン かたゆでマック5/藤原征矢から最終作(第8作目)「ピルグリム」まで一気に読んでしまいます。

【3】「気まずい二人」三谷幸喜著「角川文庫」
 人気放送作家で人間嫌いの三谷幸喜が、何を勘違いしたのか対談集を作ってしまいました。
 第1番目登場の八木亜希子アナウンサーとの対談『三谷「普通の対談みたいに、会話の妙を楽しむ、というよりは、この緊張というか、サスペンスというか、そういったものを読者の方に楽しんでいただこうかと。だからできるだけゲストには、怖い女性がいいと思って。」
 八木「それで第1弾が私ですか」一瞬言葉に詰まる三谷。
 「・・・(気を取り直して)『めざましテレビ』を見ていても・・」』この会話にこの本の全てが語られていると思います。
 本にする時のテープ起こしでは、沈黙(何も会話がない時間)が一番長かったとあるくらいですから。
 気まずい二人

【4】「恨ミシュラン(上・下)」西原理恵子・神足裕司著「朝日文庫」
 「人に会っては人を噛み、神に会っては神を噛む」と豪語する非常に下品な漫画家「サイバラ」と「マル金、マルビ」で初代流行語大賞を受賞した『金塊巻』の共同執筆者「コウタリン」が、漫画と文章で、有名店を巡ってボロクソに批評する本です。
 酷評される有名店の話も面白いのですが、穴吹編集長や壊れてしまった編集者「青ちゃん」など、本筋以外でも楽しめます。
また、下巻になるとこの2人にもう1人ゲストを招待するなど企画が増え充実?します。
 特に「杉の花粉」が気に入っているのが『自動起床装置』で芥川賞を受賞した「辺見庸」がゲストの時のベトナム料理店の話です。
 初めは「私はモノを書いている人や、バクチをやってるおっさんでこうゆうふうな人を見たことがある。どっかがキレたかんじのこわい人」「点数はと聞くと「日本ではこんな野菜しか入らないのだから仕方ない。ちゃんとやっているのだから点数なんてつけられませんよ。」本のとうり非常にまじめでやさしい答えが」と「サイバラ」に漫画の中で紹介される「辺見庸」。
 それが、次のコマで「カラオケボックスで、どんぱん節いきます」と素っ裸で歌いだし「50歳早稲田卒子供二人共同通信社芥川賞作家のやる事か、へんみようはアホタレじゃ」(以上「恨ミシュラン(下)」より引用)
と辺見庸自身が酷評される「サイバラ」の漫画です。
 「杉の花粉」が、「辺見庸」にのめり込むキッカケとなりました。
 「恨ミシュラン(上)」「恨ミシュラン(下)

【5】「中島らもの明るい悩み相談室(シリーズ)」「朝日新聞社」、「なにわのアホぢから」「講談社文庫」中島らも著
 先日、他界された「中島らも」氏の作品です。
 天下の朝日新聞に連載された「中島らもの明るい悩み相談室(シリーズ)」では、“ジャガイモに味噌を塗って食べると死ぬといわれますが、本当でしょうか”という質問に“本当です。わたしの知り合いにもそういう人がいて・・・。”と回答する中島らも。
 悩み相談以外にも時々挿入されるコラム「不幸とは何か」の中で、〈左足をキッパリとへし折った僕の嫁さんが、「今から松葉杖の妙技をお見せしよう」と言うなり、彼女は松葉杖を片っぽずつ振り上げながらロックに会わせて踊りだしたのだった〉
 そんな奥さんを見て「中島らも」は、〈「うん。・・・できる」と僕はつぶやいた。松葉杖のことではない。てめえの不幸をエンターティンメントの土俵まで引っ張りあげてしまう、その金剛力に感心したのだ。ここに要諦があるのだが、「不幸になる」のは実に簡単なことであって、要するに「不幸がれ」ばいいのだ。〉(以上「中島らもの明るい悩み相談室」より引用)と続く。
 笑いのなかに何かホッとするものが混じる「中島らも」の文章に引き込まれていきます。
 「中島らもの明るい悩み相談室

 「なにわのアホぢから」は、「中島らも」が中心となって仲間の「鮫肌文殊」、「ひさうちみきお」などが共同で執筆する大阪紹介本?です。
 特に「中島らも」が担当する「大阪の悪霊」では、〈「シングル○円」「ダブル○円」という品書きが張ってあるのだが、問題はその「ダブル」の次なのだ。ふつうダブルの次といえばトリプルである。ところがその店には「サブル」と書いてあるのだ。あれはアホな店だった。坂田利夫の生き霊が取り憑いていた。〉(「なにわのアホぢから」より引用)と悪霊が取り憑く店を鎮魂していく。大いに笑わせてくれます。
 なにわのアホぢから

 「中島らも」については、他にも有名な作品や面白い作品が一杯あるのですが、「僕は日本では、麻薬はやらない。オランダへ行けば、ソフトドラッグなら普通の薬局で売っている。麻薬をやりたければ、オランダで合法的にやればいい。違法になる日本で麻薬をやる奴は馬鹿だ。」と書いていたにも関わらず「麻薬不法所持」で逮捕されてしまいました。
 「杉の花粉」は、特に正義感があるわけでもありませんが、何か裏切られた気がして。その不信感は、彼の作品に及び、以降、読むことがなくなってしまいました。
 氏がほとんど自殺のように他界されたため、「お笑い」に関しては、ここに紹介することにしましたが、敢えて「今夜すべてのバーで」や「ガダラの豚」など有名作品は省略しています。
 「ガダラの豚(1)」「ガダラの豚(2)」「ガダラの豚(3)
 今夜、すべてのバーで「今夜、すべてのバーで」


【6】「笑う山崎」花村萬月著「祥伝社」
 冷酷無比の極道山崎が主人公の極限の暴力に貫かれた一冊です。
襲ったヤクチュウの飛田を拉致し穴倉のような部屋に閉じ込めて、何故か、その情婦良江に介抱させ、殺してくれと喚く飛田を麻薬から立ち直らせます。
 〈情け。生きる希望を与え、生きる欲望を呼び覚ましてから、その気になった瞬間、嬲り殺しにする。それが山崎の情けだった。〉(「笑う山崎」より引用)
 作中で、何人かを嬲り殺すそれぞれの場面は、読者に「嫌悪」を通り越して「快楽」をも与えかねない麻薬のような小説です。
 絶対に、人を刺したくなった時には読まないでください。「杉の花粉」は真剣に危険だと断言します。
 笑う山崎

【7】「ナンシー関の顔面手帖」ナンシー関著[角川文庫]
 日本唯一の「消しゴム版画作家」にして1日の殆どの時間をテレビ観賞に充てるナンシー関。そんな彼女が、日頃から気になる「変」な著名人達への素朴な疑問を書き綴ります。
 大声を上げて叫ぶのではなく、あくまでも淡々とした文章には思わず笑ってしまいます。
 〈淡谷のりこ子:以前「80歳を越してごらんなさい。1時間は10分ぐらいよ」と言っていた。ものすごい説得力があった。
 「1時間は10分」というのはどう考えても理不尽で納得するわけにはいかない話である。しかし、その前に「80歳越してごらんなさい」をつけられると事態は一遍する。
 他人にとっては体験するのが不可能な体験談を織り込まれると、その後にどんな突飛な説を続けても、その発言は説得力を持ってしまうということか。
 「15歳までジャングルの中でオランウータンに育てられてごらんなさい」とか言われた日には、たとえその後に続くのが「男でも子供が産めるわ」でも「世の中全部シマ模様に見えるものよ」でも説得力がある。」〉(「ナンシー関の顔面手帖」より引用) 
 1冊読めば次の本、そして、その次の本と探し続けた「杉の花粉」でした。
 シリーズ:「何様のつもり」「信仰の現場」「何をいまさら」「何の因果で」:[角川文庫]
      「テレビ消灯時間」:[文春文庫]

【8】「だって、欲しいんだもん!」中村うさぎ著[角川文庫]
 「じゃ、これ、いただくわ」とシャネルから遂に家まで購入してしまう借金女王中村うさぎ。
 〈こんな私に清貧の思想なぞ「ザケンじゃねーよ!金がいらねーんなら、持って来い。使ってやらーな!」である。
 そう、濁貧者は、金が大好きなのだ。金が好きだから、収入があると(なくとも)パパ―ッと使ってしまって、ますます貧乏になる。そこへいくと清貧の人ってのは、金を使わないワケだから、自然と金が溜まって貧乏ではなくなるはずだ。「あ、私は清貧ですから」と口で言いつつ、実は貯金通帳にン千万とか入っている。・・・これを詐欺と言わずして、何と言おうか!まったく、貧乏人の風上にも置けないヤツらである。
 そーゆーワケで、私は「清貧」とゆー思想が大嫌いだ。〉(「だって、欲しいんだもん!」より引用)
反省するどころか開き直ってしまうところがスカッとする1冊です。
 だって、欲しいんだもん!

【9】「唐獅子株式会社」「唐獅子源氏物語」小林信彦著[新潮文庫]
 〈「のう、チャボ」「わしは刑務所を出る日を間違えたんかいの?」
 「5年間、わしはあの門を出る日の光景ばかり、思い浮かべていたんよ」
「門を出て二、三歩、わしは立ち止まり、ふと空を仰ぐ。空の蒼さが目にしみて、かすかに溜息をつく・・・そのとき、控えめな声で『おつとめ、ご苦労さんです』-おまえの役や。さっと煙草がさし出される。わしが一本くわえたところで、シュポッとライターの音。当然、ライターをさし出すのは、おやっさんやな。ライターは金色のカルチェやで。マルマンだとイメージちゃうんよ。」
 「さっきから気になっとるんやけど、唐獅子通信社ってなんや?二階堂組の名、いつから変更になったんや?」〉と別荘(?)から5年ぶりに事務所に戻ってきた主人公「不死身の哲」こと黒田哲。
 その主人公が、〈「ふーむ」私は煙草のけむりの輪を吐いた。極道が近代企業に生まれ変わるという意味がもうひとつ呑み込めない〉(以上「唐獅子株式会社」より引用)ながらも、本家須磨組大親分の迷令の下、「通信社」「放送事業」「生活革命」「意識革命」「映画産業」と次々に振り回されていきます。
 昨今の国や地方公共団体に見られる怪現象を先取りしたようで、文句なしに笑えます。
 「唐獅子株式会社

 「唐獅子源氏物語」ではその大親分が、警察の締め付けから逃れるために須磨へ「貴種流離譚」するのがメインのお話です。
 「何という帝の御代でございましたでしょうか、日本各地に数多の親分衆が割拠している中に、ひときわ時めいている方がおられました。」と文体も古典風になり、〈「われなくて草の庵は荒れぬとも 世に極道の種は尽きまじ」「『四方の海みな同胞と思ふ余に、思ふかたより風や吹くらん』独り言のようにおっしゃられて、早くも、防弾チョッキをお召しになります。」〉(以上「唐獅子源氏物語」より引用)
など和歌のパロディに思わず笑ってしまいます。

【10】「空想科学読本」柳田理科雄著[宝島社]
 『超音速飛行』のなかで「絶望的に危ないのは、マッハ7で飛ぶウルトラセブンである。先端角は16度!これはもうキリだ。
 しかも理不尽極まりないことに、セブンは両手を広げて飛ぶのである。どう考えても、両腕からそれぞれ先端角16度の衝撃波が発生し、どちらも彼の顔面を直撃する。顔はザクロのようにはじけ散り、もちろん体も2つに裂けてしまう。
 もっとすさまじいのは、ウルトラマンAとウルトラマンタロウだ。この両名の飛行速度はマッハ20というのだから、もうどうしようもない。先端角は、驚くべし、2・3度!針ではないか。どうすればそんな円錐に体を収められるというのか!?特にタロウ!頭にあんなデカイ角をつけてマッハ20で飛ぼうなんざ、あまりにも身の程知らずだ。せめて5分刈りにせい!5分刈りに!」(「空想科学読本」より引用)
と空想科学の常識を科学的に(?)分析しています。本当なの?という疑問は付いてまわりますが、ウルトラセブンがマッハ7で飛ぶよりは信用できそうです。
 空想科学読本(1)新装版

【11】「むかし僕が死んだ家」東野圭吾著[講談社文庫]
 7年前に別れた恋人・沙也加から、私には幼い頃の思い出が全然ない。その記憶を取り戻すために、生前父親が月に数日内緒で出かけていた場所に一緒に行って欲しいと頼まれる主人公。
二人して訪ねた場所は、「尖った大きな屋根に、三角屋根の小屋窓が二つついており、その中間あたりから煙突の四角い柱が突き出ていた」新しい別荘地の更に奥に建てられた古い家でした。
 彼女の父親が隠していた鍵は地下室の入り口の鍵。その地下室から無人の家に上がり込むと玄関のドアの四隅が太いボルトと金具で固定されています。
 そしてどの部屋の時計も十一時十分を指して止まっている。
 そこから、沙也加の自分探しの旅が始まります。
 本棚から見つけたその家の子供らしい「佑介」の日記を基に記憶の奥を探る沙也加。
 「おたいさん」「猫、チャーミー」そして「あんなやつ死ねばいい」など日記に記された意味不明な言葉。
 少しずつ思い出していく沙也加が気付きます。「昔、この家に、あった筈の部屋がない」。
 妖怪も幽霊も出てきませんが、不安な気持ちで息をつく暇もなく一気に読んでしまいます。最後には主人公も・・・。
 気が付いたら時計の針が勝手に進んでいますので、何もすることがない時にはピッタリの1冊です。
 むかし僕が死んだ家
 
【12】「龍の黙示録(シリーズ)」篠田真由美著[祥伝社文庫、祥伝社のノン・ノベル]
 美術評論家で幻想怪奇の著述家として有名な龍緋比古を主人公に、彼が住む鎌倉の洋館に秘書として雇われた柚ノ木透子をヒロイン(ヒーロー?)とした「新世紀吸血鬼伝説」ということです。
 つまり、龍緋比古は2千年に渡って生き続ける吸血鬼なのです。
 元々は、只の妖物でしたが、彼に「イエス・キリストが自ら血を与えた」ことにより、人の血を啜る必要もなく、昼間に外出することも出来るという設定です。
 この龍緋比古に流れるイエスの血を求めて妖魔が集まってくるのを、龍緋比古、美男子に間違えられる男勝りの柚ノ木透子、時としてピューマのような獣に化すライル(女の子の時はライラ)の3人で片っ端からやっつけるというお話です。

 〈「朝は濃ゆいキスをしたら駄目だなんて誰が決めたの?子供には充分に愛情表現しないと、後でゆがむんだからね」「なあにが子供だッ!」透子はわめいて立ち上がる。
 「私よりずっと長く生きているくせに、いまさらカワイコぶるんじゃない。この妖怪変化!」「あ、ひどい、トウコったらそんなこといって。差別だ、差別。ぐれてやるう」
 長結びにしたエプロンの紐をひらめかせて、ライラはあっという間もなく開いたままのドアを飛び出してしまう。〉(「東日流妖異変」より引用)
と宗教をベースにしていながら非常に軽いタッチで著者が楽しんで書いていますので、あっという間に読み終わり、次の作品を探すことになります。
 2千年前からの敵「ミリアム」、東北の「御還り様」、甦ったエジプトの王「ス・ネフェル」、ゾロアスター教の邪神「アンラ・マンユ」など其々キリスト教を中心に、シリーズが続きます。
 シリーズ:「龍の黙示録」、「東日流妖異変」、「唯一の神の御名」、「聖なる血」「紅薔薇伝綺
 水冥き愁いの街「水冥き愁いの街」

【13】「変!!」中島らも著[双葉文庫]
 中島らも氏については、色々書いてしまいましたが、「杉の花粉」が初めて読んで、中島らもにのめり込むキッカケになった本が出てきました。もちろん、題名のとおり彼の代表作ではないと思いますが。
 〈さて貧乏についてまわってくるのが「借金」という奴である。
 ある日、稲垣足穂のところに市民税の調査員がやってきた。
 「ご職業は?」
 「ありません」
 「収入は?」
 「ありません」
 「じゃ、何で生活しているのですか」
 「借金です」〉

 〈尾崎行雄というと、憲政の神様として有名だが、若い頃にはやはり借金の取り立てに苦しんだらしい。
 子どもたちがタンスや家具に貼り紙をして、「執達吏ごっこ」をして遊んだというから相当なものだったのだろう・
 ある年の節分の夜、
 「今日は鬼がくるよ」と子供たちをからかったところ、
 「やっぱりカバン下げてくるの?」とやり返されたという。
 子供まで借金慣れしているわけだが、一家そろって貧乏を「楽しんで」いるところがなかなか頼もしい。〉(以上「変!!」より引用)
 中島らも初期の頃の作品だと思われます。
 この「変!!」と、もう一冊似たような本(書名を忘れてしまいました)の内容が、その後の彼の本に、ズット使い回しされていますから。エッセイですが、非常に笑えます。
 「【古本】変!!/中島らも

【14】「重役養成計画」城山三郎著[角川文庫]
 企業小説を中心に執筆している城山三郎が、「出世」とか「騙しあい」など面倒くさい小説に飽きて、息抜きに書いたのではないかと「杉の花粉」は疑っています。
 平凡な1社員である主人公大木泰三が勤める大鷲造船が、ある日、何を思ったのか「最高幹部養成計画」を始めてしまいます。
 その「派閥を超えた大物になるための重役候補生は4人でしたが、各派閥から1人ずつ選出され、残った1つの席が大木泰三に廻ってきます。
 その理由というのが、ある時、大木が「グリーン席の定期券」を手に入れたことから始まります。通勤に使う列車には「グリーン車」は2両だけ。
 会社から遠い場所に住む大木は、その1両に乗り込みます。
 その時、車内は未だガラガラで席に座り「ロシア語」を勉強する大木。
 途中、車内が込み合う頃になって、大鷲造船の重役で一つの派閥のボスが乗り込んで来ます。最初は、眼を合わせないようにしていた大木でしたが、相手が気が付いたらしく、「席を譲れ」というキツイ視線に晒され、大木は渋々その重役に席を譲ります。
 翌日は、もう1両の方のグリーン車に乗り込み「ロシア語」を勉強し始めると、今度は、もう一つの派閥のボスが乗り込んできます。しかたなく席を譲る大木。
 その翌日には、こんなことなら「グリーン車の定期券」などいらないと解約してしまうのですが。
重役会議で、幹部候補生を選出する際に、“派閥を超えた大物つくり”のプロジェクトなのに、それぞれの派閥から1人ずつ選出している後ろめたさと「席を譲ってもらった」という経験から、残りの1席が大木泰三に廻ってきたわけです。
 「意味がないことをしたい」と始めた「ロシア語」が役に立ったり、出世に邁進する他の3人、周囲の女性社員の憧れのまなざし、男性社員の嫉妬、そして4人が暮らす寮の少し変わった寮長など、アメリカンドリームというよりは「藤山寛美」の人情喜劇をみているような変な気分が味わえます。
 著者が楽しんで書いているのが伝わってきますので、企業小説に興味のない方でも一気に楽しんで読める一冊です。
 「重役養成計画





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